市田柿

市田柿について
伊那谷の霧と干し柿
飯田市上郷 岡田勉氏著 「柿の文化誌-柿物語-」より引用
~ 略 ~
 伊那谷は西に中央アルプス(木曽山脈)東に南アルプス(赤石山脈)に囲まれた幅の狭い谷間である。秋になると夜間冷やされた空気が低い谷底へ下ってくる。そして温度が更に低くなると空気中の水分が飽和状態になり、細かな水滴となって空気中に漂う。“放射霧”の発生である。
 谷の中央を流れる天竜川の水温は10月午前6時平均14℃である。秋になると朝の気温は低くなってくる。朝の温度が7~8℃、時に5℃以下になると、天竜川やその支流より蒸気が上がる。“蒸気霧”(川霧)の発生である。
 霧の出る日は風が弱く晴天の朝である。10月、11月は2日に1日は霧であり、この2つの発生原因の霧が重なって、濃い日には数十メートル先も見えない。
 皮をむいた市田柿は風通しの良い軒下に吊り下げられ、2週間ほどすると渋味が取れてくる。 年によって秋の晴天が長く続き、また秋の木枯らしが早く吹くようになると柿の乾燥は一気に進む。しかし、このような年の干し柿の仕上がりはもうひとつで、渋味が残り食味が悪い。
 干し柿の乾燥は微妙なもので気象条件に大きく左右される。湿度が高く雨が続けば渋の抜けは良いが、カビの発生が心配である。美味しく仕上げるにはあまり寒くなく徐々に干し上がるのがよい。
 天竜川の霧は湿度と温度を適度に保ち、柿を徐々に乾燥させる。伊那谷の地形と気象は品質のよい干し柿を作るのに大変役立っている。市田柿が“霧柿”と言われる由縁でもあり、朝霧の発生する天竜沿岸の干し柿の品質は最高である。
霧が出ると河岸段丘と南アルプスの眺望もまったく見えません。
霧が出ると河岸段丘と南アルプスの眺望も
まったく見えません。
晴れて寒い朝、高台に登ると天竜川の川霧が雲海のように見えます。市田柿の里は雲海(霧)の中です。
晴れて寒い朝、高台に登ると
天竜川の川霧が雲海のように見えます。
市田柿の里は雲海(霧)の中です。